幻の女 その2

「幻の女」読了。
…まんまとやられた。先回の日記を読むと作者が仕掛けた罠に面白いくらいはまっているのが明らかで、
我ながらなんて素直な読者なのだ。予測はすべて外れており、推理力がないのも露呈。


「意外な犯人」という点では、大方の評価の通り屈指の作品であろう。
極上の読後感に浸るとともに、あと何回こういう経験ができるのかと思うと寂しさもまた押し寄せてくる。


しかしだまされて喜ぶなんて、人間というのはおかしな生き物だ。

現れては死んでゆく登場人物たちがそれぞれに抱えている病を描き分ける筆力が、
リアリティを支えているということも附言しておこう。
僕はこういう「狂ったアメリカ」という挿話が大好きなのだ。
リンチではまともな「the straight story」に出てくる、自分が轢いた鹿の剥製を道端に
並べている女のエピソードがいつでも思い出される。


高田馬場ルノアールでさいごの数十ページを読み終えた。
遠出はしなかったが、この一事だけで充実した休日を過ごすことができた。
湿気の多い天気のせいもあって、脳みそを水洗いしたような気分になった。
それ自体近ごろ稀な出来事である。