「花火」

「○○の雑学」とか「話のタネ」とかいった題名の本には興味を引かれるのだが、読み通したためしがない。
いかに多くの項目を載せるか、に眼目があるわけで典拠のはっきりしないような怪しげな話が多かったりする。
数少ない例外が槌田満文「ことばの風物誌」。
それぞれの言葉について、主に近代以降の小説や随筆から用例を引いてあるので、楽しく読まれる。
特にうなった一文。
「未知なものにあこがれるエキゾチシズムにひかれて、自然主義を生んだフランスへ渡った荷風は、エキゾチシズムに必要な距離感を失うとともに、東洋人としての自覚に目ざめた。帰国してのちは、その距離感を過去に求めて、江戸戯作者が生きた『流竄の楽土』に逃れる。」
荷風の行きかたを簡潔に言いえて妙である。
************
同書から、同じく荷風について。
大逆事件の囚人馬車を見て、江戸戯作者の境地に身を落とす覚悟を固めたという有名な告白は、この小品の一節に記された。」
「この小品」とは大正8年の「花火」
ふらんす物語 (岩波文庫)